小高い丘の上には、決まって「この世ならざる場所」への入り口がある。たとえば寺、神社、お墓、など。
土地が発する微弱なメッセージを知らず知らずのうちに受け取り続けて生活している私たち。死者と生者の世界の間を感じるような旅でした。
2年目に突入しました、「もやもやアグよし」。西武線は新宿線・池袋線の他にも細かな支線がいくつもあって、どこも魅力的なのですが、今回は特に気になった「西武山口線」を訪ねてみました。
愛称は「レオライナー」。西武遊園地駅と西武球場前駅を行き来する、とても短い路線です。
電車から見ると、球場方面に向かって左手が東京都、右手が埼玉県、とちょうど県境を走っています。
この一帯は 狭山湖と多摩湖、2つの湖に囲まれているのですが、実はこの2つの湖はどちらも人造湖です。東京の人口の増加に伴って1927年に多摩湖が、1934年に狭山湖が貯水池として作られました。
この大きな湖を人の手で作ったとは、信じられません・・・。
何か工事してますね。
多摩湖の少し北側に、慶性門という門があります。
もともとはダムに沈んだ村の寺にあったものでしたが、門だけがここに移築されたようです。
屋根が茅葺になっており、これは「長屋門」という非常に珍しい形だそうです。
門の脇道を登っていくと、大多羅法師(だいだらぼっち)像が出迎えてくれます。
この辺りには巨人伝説が多く残されています。富士山は巨人の籠から土がこぼれ落ちてできた という話や、巨人の足跡が井戸になった、など。
湖の近くなだけあって、水神信仰と深い関連があるみたいです。
もののけ姫にも出てきた「だいだらぼっち」の「ぼっち」は「法師」と書くのですね。静かな驚きがありました。
さて、西武球場駅の周りには飲食店がほとんど無く、あっても14時で閉まっていました。仕方なく球場前の広場でコンビニ弁当を食べます。寒い。
やけに馴れ馴れしい猫と、
やけに馴れ馴れしいスズメに監視されながら食べ終わりました。
今日は試合がないので、球場前は閑散としています。
腹ごしらえも済んだので、駅からすぐ近くの狭山不動尊に向かいます。
立派な門がまえ。
重厚な建造物が幾つもありますが、もともとこの場所にあったものは少なく、様々な場所から移築されてきたものが多いようです。
鐘、めちゃめちゃ突きたかったけど、なんとか我慢しました。
次は不動尊の隣にある、残念な門が出迎える山口千手観音に向かいます。
この場所がまた・・なんというか・・
至る所に張り紙がしてあったり、でかい龍が這い回っていたり、サンスクリット語が書かれていたり・・
急にアジアのお寺のような空気が漂ってきました。
水子供養や、閻魔堂もあって。
この世のじめじめとした悲しみや、おどろおどろしさを引き受けているような日常とは異なる空間。
山を登った先で、魔界に迷い込んだような気分になりました。
さて、そろそろ日も暮れてきましたが、最後の目的地・狭山湖畔霊園に向かいます。
ここもまた小高い場所にあります。
先ほどの禍々しさとはうってかわって、とても風通しが良い場所にあります。
霊園に来た方用の休憩室があるので少し休ませてもらいました。
とても静かで、穏やかな場所でした。
窓の向こうには屋根の傾斜を流れる雪解け水が絶え間なく滴っています。
管理人の方にお願いをして、霊園の奥にある礼拝堂を見学させてもらうことにしました。
この霊園には尾崎豊のお墓があることでも有名で、ちょうどこの時もファンと思われる女性がお墓の前にいらっしゃいました。
土地が高いので、下の街が一望できます。
日々の生活を営む人々を、死者が静かに見守れるような場所にあります。
綺麗なお墓が多かったので新しい墓地なのかと思いましたが、歴史は意外と古く、昭和40年代からあったそうです。
礼拝堂に着きました。
建築家・中村拓志氏による、美しい建物です。→公式サイト
いっけんすると不思議な造りをしていますが、威圧感は全く無く
しっかりと、でも謙虚にその場所をお借りしてそっと佇んでいるという感じでした。
静けさと柔らかな光に包まれて、居心地がとても良いです。
なにかを「悼む」という時間を無理なく過ごすことのできるように計算されて設計されていることが伺えました。
古来より、人は小高い場所に「この世ならざる場所」を見いだしてきました。
今回訪れた山口千住観音と狭山湖畔霊園、どちらも日常とは違った高さにある異空間でした。
一つはあらゆる神がごった返した魔界、そしてもう一つは透き通った静かな涅槃のような場所。
その二つが近くに存在しえたのが狭山丘陵という土地の面白さだったように思います。
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